熱中症は初期症状から重くなるまで一気に進行しやすい。
専門家は水分や塩分の補給といった“王道”の予防策を講じるだけでなく、災害と同様、危機感をもって対処する大切さを説く。
日本列島が記録的な暑さに見舞われ、今後も35度以上の猛暑日になる日が増えそうだ。
これまでに熱中症とみられる緊急搬送が相次ぎ、高齢者を中心に多くの人が命を落とした。
日本列島は21日も高気圧に覆われ、東北から西日本の広い範囲で気温が上昇し、京都府舞鶴市や鳥取市で38.2度を記録するなど、35°以上の猛暑日となる地点が相次いだ。多くの学校で夏休みが始まり、各地の海水浴場やプールは子供たちで賑わった一方、緊急搬送された人も多く、熱中症か、熱中症の可能性がある死者が11人に上った。
気象庁は各地に高温注意情報を出し、水分や塩分の補給、エアコンの適切な利用など熱中症を予防する対策を呼びかけた。厳しい暑さは22日以降も続く見通し。
広島県内では午後7時時点で57人が熱中症の疑いで病院に搬送され、うち廿日市市の一人が亡くなった。
廿日市市消防本部によると、午後3時5分頃女性(81歳)が畑で倒れているところを通行人が見つけ、119番。心肺停止の状態で市内の病院に搬送され、死亡が確認された。
福山市では、西日本豪雨の被災地でボランティア中の女性(76歳)が気分が悪いと訴え、運ばれた。被災地では呉市34.4°▼福山市35.2度▼府中市36.4度▼東広島市33.3度▼倉敷市33.9度など。広島市中区は35.1度だった。
気象庁によると、全国にある927観測地点のうち687地点で30°以上となり、このうち179地点で35°以上の猛暑日となった。
一気に重症化専門家が警鐘
照りつける日光、地面から立ち上がる熱気。「まるでサウナです。体がついていかない」。岐阜県多治見市では40.7度を記録した18日午後、家路を急ぐ主婦(50)から悲鳴に似た声が上がった。
この猛烈な暑さは、列島の上空5千㍍ 付近の太平洋高気圧に加え、上空1万5千㍍ 付近でチベット高気圧にまで覆われているためだ。
2層の高気圧の下、雲ができにくいから雨が少なくなる。
西日本豪雨の後、まとまった雨が降った地域は少ない。
日が陰らないから直射日光が照りつける。
高気圧から下降する気流が地表付近の空気を圧迫することで気温を上昇させた。
多治見市の場合、14~18日の最高気温は38.7度から多少の波はあるが少しずつ上昇。
内陸のせいか、海からの比較的涼しい風も入りにくかったようだ。
そして実はこの間、最低気温も23.2度から26.6度まで上がっていた。
夜間に気温が下がりきらず、夜が明けると上昇に転じていたことがうかがえる。
17、18日は最低気温が25度を超えて熱帯夜にもなった。
異常なら疑う
同様の傾向は他の地域でも見られる。
ただでさえ昼間が暑いのに、エアコンがなければ夜も寝苦しい。
疲れはなかなか取れず、熱中症のリスクが高まっていく状況だ。
「体力落ちると熱中症になりやすく短時間で重症化しやすい。食事を抜かず睡眠を十分取る 生活が大事」と専門医は訴える。
めまいや立ちくらみは熱中症の初期症状かもしれない。「異変があれば熱中症を疑ってほしい。違ってもいい」と話す。
対策が叫ばれても熱中症とみられる救急搬送は後を絶たない。なぜか。
災害社会工学が専門の東京大大学院教授は、「熱中症は命に関わると知っている。対策もわかっている。ただ、自分が当事者になるとは思えないのではないか」と分析する一人だ。
異変や不安に直面すると、人間は平静を取り戻すため現実を過小評価することがある。「正常性バイアス」と呼ばれ、津波や大雨などの災害時に避難の遅れにつながる心理と指摘され、熱中症にも同じことが言えると考えられている。
大人が見守って
「日本では、暑さを理由に仕事を中断したり予定を延期することを避ける精神文化が今でも根強い。他の災害と同じように対応すべきなのだが、そうした考えは社会全体で十分に浸透していない」と警鐘を鳴らす。
高齢者とともに熱中症になりやすいのが子供だ。背が低ければ日の照り返しを強く受け、汗が出る。汗腺が未発達で体に熱が溜まりやすい。幼ければ体調悪化うまく伝えられない。
遊びに夢中の時や部活動など集団活動中なら我慢して言い出さないことも。
周囲の大人が注意深く様子を見守る必要がある